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2050年までにCO2排出量を大幅削減?航空産業の開発速度を上げよ!

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(写真提供:Pratt & Whitney)

 

昨年、菅総理大臣が「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」と所信表明しました。これにより、日本全体がどのように脱炭素社会へ転換していくのか、大きな議論を巻き起こしています。そこで今回のブログでは、航空産業に焦点を当て、業界全体が直面する環境課題や、それに対する世界的企業の取り組みを紹介します。

 

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1970年代頃、大量の燃料消費と温室効果ガスの排出と引き換えに、巡航速度の上昇と座席供給量(キャパシティ)の拡大に注力していた航空産業。しかし半世紀が経った今、業界を取り巻く事情は一変し、航空産業は総出で「二酸化炭素(CO2)排出量削減」という課題に取り組んでおり、持続可能性と燃料消費をキーワードに、環境に配慮した航空機技術の開発が進んでいます。

 

今日、民間航空機市場におけるCO2排出量削減の取り組みは活発化しており、世界大手の旅客機メーカーであるエアバスボーイングが製造するジェット旅客機では、様々な最新技術を応用し、過去50年間でそれぞれ燃料消費量を70%、CO2排出量を80%、窒素酸化物排出量を90%削減することに成功しています。さらに、エンジン技術と素材技術の高度化により75%の静音化も実現しており、あらゆる輸送形態と比較して、大型旅客機はエコフレンドリーを実現しています。これらの取り組みにより、現在では全世界のCO2排出量に対して、航空機による排出量が占める割合は約2%まで減少しています

 

パリ協定の達成に向けて動き出す航空産業

しかし、航空産業ではさらなるCO2排出量の削減が求められています。この背景には、2015年にフランス・パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で締結されたパリ協定があり、同協定には21世紀後半にかけて、脱炭素化を目標に世界全体の温室効果ガス排出量をゼロにする目標が組み込まれました。この実現に向け、航空産業全体として、CO2排出量を2005年比で50%減とする目標が設定されています。

 

これに対してボーイングでは2012年から7年間にわたり、長期的で持続可能な成長を目指す同社の取り組みの一環として「ecoDemonstratorプログラム」を始動し、ボーイング777-200モデルを使用して50種類以上の低燃費技術を試験するなど、その課題解決に向けた取り組みを加速させています。しかし、ロールス・ロイスの最高技術責任者であるPaul Stein氏は、ボーイングのようなイニシアティブにより業界全体で年間1%~1.5%の平均汚染低減率を達成している一方で、それがまだ十分な数値ではないと指摘しており、「CO2排出量削減のペースには追い付いていないのが現状で、より踏み込んだ取り組みが必要」と強調しています。また、エアバス・アメリカ社の研究および技術担当副社長である Amanda Simpson氏も、「航空産業は人々の想像よりも急速に技術発展を遂げていますが、長期成長曲線を鑑みると、2050年の目標達成に間に合わせるためには引き続き革新的な取り組みが重要です」と語っています。

 

(写真提供:Bruno Saint-Jaimes, Airbus)

 

軽量化、航空交通管理、燃料・・・技術開発に急ぐ業界と各国の取り組み

2050年の目標達成に向けてペースを加速するために、航空産業が現在開発している持続可能な解決方法として、機体の軽量化と空気力学の向上や、商業用運送に関わる航空便の最短飛行ルートを可能にする次世代型航空交通管理システムの導入など、複数の技術の利活用が進んでいます。

 

また、市場では新しいエネルギー源の開発にも注目が集まっています。エアバス、ボーイング、ダッソー・アビエーションゼネラル・エレクトリック、ロールス・ロイスなどの機体メーカー、エンジンメーカーなど大手各社が連携して、開発に取り組んでいます。前述のStein氏は、2019年にオーストラリアのキャンベラで開催された第24回エアーブリージングエンジン国際学会で講演した際に、「今こそ、持続可能な航空燃料の使用量を拡大していかなければならない」と、航空産業におけるエネルギー源開発の重要性を指摘しています。さらに大手コンサルティング企業のマッキンゼー・アンド・カンパニーが2020年6月に発表した調査では、「カーボンニュートラルな飛行機を2035年までに開発することは可能」としており、この調査の焦点となった液体水素について、主要航空燃料としてほとんどの航空機に適していると結論付けました。

 

このような流れから、フランス政府ではエアバスA320の後継機を水素燃料で駆動することを目標に掲げ、環境配慮型技術の研究に対する助成金として、3年間で150億ユーロの投資を計画しているほか、2035年までにカーボンニュートラルな航空機を製造する目標を立てています。また、ドイツ政府は、環境に配慮した民間航空輸送を実現させる上で、水素が重要な役割を果たしうるという考えの下、「国家水素戦略」を打ち立て、航空機の推進装置とハイブリッド電動航空機に関する水素の利用を支援するため、68億ユーロを投資しています。フランスやドイツのこれらの取り組みは、2020年初頭に欧州委員会により、西ヨーロッパ産業の脱炭素化とデジタル化を促進する新しい戦略の要として発表された「欧州クリーン水素同盟」の発足計画に則したものです。

 

安全性と技術発展のバランス

航空産業の注力は持続可能な燃料開発にとどまらず、主要航空機メーカーは、軽飛行機や大規模実証実験用無人航空機や空飛ぶタクシー等の電気駆動型およびハイブリッド電動型推進システムの開発にも取り組んでいます。

 

既に、エアバスとロールス・ロイスは、未来の航空機開発に向けたバッテリーや電気モーターなどの先進技術が、航空機の新たな推進システム開発を飛躍させる基盤になりえると示唆しており、これまでにもハイブリッド電気航空機「E-Fan X」プロジェクトなどを立ち上げてきました。同プロジェクトは2020年初頭に廃止されましたが、プロジェクトから得られた知見は業界の課題解決に役立つと考えられています。

 

前述のエアバス・アメリカ社のSimpson氏は「2030年代半ばまでにゼロエミッションを達成することが目標ですが、今後も当社のモットーである『安全第一』は変わりません」と述べ、安全を意識した技術開発を軸に据えながら、刻一刻と迫る2050年のCO2排出量削減目標に向けて舵を取っています。

 

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本記事はダッソー・システムズのCompass magazine(オンライン)からの抄訳です。オリジナル記事(英文)はこちら

 


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