
厚生労働省が2020年10月に発表した循環器病対策推進基本計画によると、日本における主要な死亡原因は脳卒中、心臓病、その他の循環器病となっています。近年、心血管疾患の研究や治療に対する課題を解決するために、3Dモデリングの技術が注目されています。そこで今回のブログでは、心臓の動きをシミュレーションできる3D心臓モデルについて、革新的な研究や個別化医療に応用するための「リビングハート・プロジェクト」を紹介します。

マルチフィジクスのリビングハート・モデルによって、研究者や外科医は、鼓動する心臓のあらゆる側面を没入型環境で観察し、心臓を内側から見ることも可能。(Image © Dassault Systèmes)
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患者の個別化医療の実現に繋がる心臓の3Dモデリング技術
心臓の治療計画の作成において、医師が拡張現実(AR)や仮想現実(VR)などの没入型技術の活用によって、それぞれの患者の心臓の構造や特徴を観察し、あらゆる情報に基づいて効果的な治療法を決定できるようになります。この実現に向け、活用されている技術が3Dモデリングです。
ダッソー・システムズは、心臓の動きをシミュレーションできる3D心臓モデル「リビングハート」を開発・検証し、新たな革新的な研究や個別化医療に応用することをミッションとする「リビングハート・プロジェクト」に取り組んでいます。このプロジェクトはもともと、3D心臓シミュレーションモデルの可能性を探るダッソー・システムズの研究の一つとして始まりましたが、現在では心臓血管研究者、教育者、医療機器開発者、心疾患専門医、規制当局などが連携するオープンイノベーションの取り組みとなっています。
2014年、同プロジェクトでは心臓の電気信号から構造、機能、鼓動時の血液の流れに至るまで、健康な成人の心臓をあらゆる側面から詳細に再現できる、初の3D心臓モデルの開発に成功しました。このモデルは、実在する患者個人のデータに基づいてカスタマイズすることも可能であり、治療の選択肢を増やし、ひいては個別化治療の実現につながるものとなります。
同プロジェクトを率いるダッソー・システムズのスティーブ・レビンは、「心臓はその臓器自体を守るために胸の奥深くに位置しており、何らかの異常を把握するのは大変困難です。私たちのビジョンは、心臓の3Dモデルを用いて、業界全体で知識、アイディア、専門性を共有できる共通プラットフォームを構築することでした」と話します。
「リビングハート」によるデジタル革命で変わる医療と患者の未来
「リビングハート・プロジェクト」のバーチャル心臓モデルを使うと、医師は患者の心臓の状態を理解できるだけでなく、コンピュータの画面やVR環境で、リアルに機能する3D心臓モデルを操作しながら、心臓の動きを臓器内部からも観察できるようになります。
しかし、バーチャル心臓モデルの登場において最も重要なのは、患者への医療介入前に、複数の治療オプションを検証して最適な治療法を決定できる点です。つまりバーチャル心臓モデルは教育やトレーニングのみならず、新しい医療機器や医薬品の開発・設計、臨床診断や治療に至るまで、医療のあり方そのものに大きな変化をもたらします。また、バーチャル心臓モデルをクラウド上において利用することで、遠隔地からでも患者の病状をわかりやすく説明できます。たとえば複雑な外科手術の場合も、その意義や想定しうる結果を視覚的に説明し、また理解できるようになるので、患者とその家族の医療体験の向上にもつながります。
米マサチューセッツ工科大学 医工学研究所教授兼ハーバード大学 医学部教授であり、ボストンのブリガムアンドウィメンズ病院の冠状動脈治療ユニットで上級指導医を務める イレイザー・エデルマン氏は、次のように述べています。「コンピュータによるモデリングは、個別改良において非常に重要な要素です。患者によって異なる人体の構造をコンピュータ上に再構築できるだけでなく、その生物学的な反応を予測することもできます。コンピュータによるモデリングの所見に基づいて、ある患者の治療の選択肢となる薬剤、機器、医療介入を複数示せるようになれば、医師の経験や直感、運だけに頼ることなく、それぞれの患者に最適な治療方法を決定できるようになります」
エデルマン氏はこう続けます。「コンピュータによるモデリングは、臨床医や科学者として私たちが行うあらゆることに欠かせない要素になるでしょう。医療画像は、X線を使う静止画から(CTスキャンのような)3次元再構成法へと進化しました。患者への医療介入を仮想的に行い、医師や患者に対して、特定の手術、医療介入、挿入、移植を行うことで想定されうることを視覚的に示すことができたら、と想像してみて下さい。これはすべて未来の医療の一部分であり、近い将来に実現するでしょう」
リビングハート・プロジェクトに関わるメンバーは、まさにその未来を実現させようとしているのです。
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本記事はダッソー・システムズのCompass magazine(オンライン)からの抄訳です。オリジナル記事(英文)はこちら