
今日、タイヤメーカーは、電気自動車(EV)や完全自動運転車など、新たなモビリティに最適化した新しいタイプのタイヤの開発を進めています。しかし、タイヤにセンサーを組み込むことで、タイヤは運転時の挙動、タイヤの状態、路面の状態に関する情報を分析・統合し、ドライバーに高い付加価値と安全性を提供することができます。
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世界最大のタイヤメーカーであるミシュランは、2023年から同社のすべてのタイヤにRFID(radio frequency identification)チップを搭載することを決め、以後製造する全てのタイヤをIoT対応とし、最終的にはタイヤの状態やその他の重要な情報をドライバーに通知する仕組みを実現することを目指しています。
同社は既に、子会社であるビアミシュラン(ViaMichelin)のサービスでルート案内の機能を提供しています。また、タイヤのスローリーク1を感知するとドライバーに警告する機能も備えており、今後新たなデータを組み込むことで、運転前にドライバーに対してタイヤの交換が必要かを確認するなど、予知保全サービスの導入も計画しています。
ミシュランのコネクテッド・モビリティ担当バイスプレジデントのパスカル・ザミット氏は、「将来的には、運転中のドライバーの挙動、タイヤの状態や路面の状態を、当社側でも把握できるようになると思います」と述べています。
運転中の路面状況や積雪はタイヤが察知!
米国バージニア州にあるタイヤ・リサーチセンター(CenTiRe)は、タイヤメーカーと、バージニア工科大学とアクロン大学(オハイオ州)が設立したタイヤの研究を行うコンソーシアムで、現在、大きな計画に取り組んでいます。
CenTiReの創設者であるサイード・タヘリ氏によると、研究チームは、タイヤに搭載されたセンサーを使って広範なデータを収集しています。たとえば、走行中の路面がアスファルトなのかコンクリートなのか、積雪や凍結はあるか、ハイドロプレーニング現象やスリップを起こす危険性はあるか、といった情報を集めることができます。こうした情報をドライバーや周辺の自動車に伝えることで、安全な走行を実現できます。路面の状態や渋滞に関する情報が、車同士の通信だけでなく、車と橋やトンネルとの通信からも得られるようになるのです。
「タイヤ・インテリジェンス」とも呼ぶべき、タイヤを介した情報収集・分析活動の劇的な進化は、IoTを活用した第5世代移動通信システム(5G)の登場により現実のものとなりました。5Gでは4Gと比べて最大100倍の通信速度が可能になると期待されています。タイヤ業界のイノベーターは、車とドライバー、車両間、路車間(車とインフラ)の通信において、センサーを搭載したタイヤが中心的な役割を担うことを予測し、そうした未来に備えています。
タイヤには、既に空気圧や熱を検知するセンサーが搭載されていますが、加速度計など、さらに多くのセンサーの開発が進められています。こうしたセンサーは、走行中のタイヤの摩擦をとらえます。タイヤメーカーは、タイヤのサイドウォール(側面部)の片側から反対側まで届く幅20センチ程のセンサーパッチを考案しています。パッチには64個ものセンサーが配置され、ハンドルを切った際の路面との接触状況に基づき、タイヤの寿命や安全に関わる問題が特定された場合、即座に通知することができます。
スマート・タイヤの実現に伴う課題
スマート・タイヤ(センサーを搭載するタイヤ)は急速に発展しており、各国政府の法規制は追いつかなくなる可能性があります。こうしたタイヤを搭載する自動車メーカーを取り巻く法規制の状況も同様です。
道路、自動車、ドライバーが完全に相互につながるシステムの構想を実現するには、まず、これらのシステムを構成する要素(コンポーネント)を規定し、障害が発生した場合の責任の所在を明確にするための通信規約や法的枠組みについて、政府やその他のステークホルダー間の合意を形成する必要があります。また、規制当局には、タイヤから得られるデータの所有者や管理者が、ドライバー、自動車メーカー、タイヤメーカーのいずれになるのかを定める責務もあります。
自動車メーカーも、長年の技術開発で作られた複雑なシステムに新技術を組み込むには時間を要すると示唆しています。多くの場合、システムへの統合には5年単位での計画立案が必要になります。しかし、タヘリ氏は、「5年後には、この技術の大部分が既に古くなり、新しいセンサーや新しい形態の通信が出てくるでしょう」と語ります。
また、ミシュランは、データの所有者について明確な立場を打ち出しています。「ユーザーのデータを尊重することは基本であり、共有するデータやそれを使用する第三者サービスプロバイダーを、自動車のオーナー(またはユーザー)が自由に選択できることを当社の信念としています」と、ザミット氏は述べています。
ミシュランは、完全に標準化されセキュアでサイバーセキュリティ対策が徹底されたシステムの構築を進めており、これは未来の自動車を開発する企業にとっては、さらなる考慮すべき重要な課題となっています。
こうした取り組みは、自動運転車の開発・実用化において、タイヤが最終的に重要な役割を果たすという可能性を示しています。CenTiReのタヘリ氏によると、研究チームは既に、1千キロ以上も離れた地点からタイヤが穴やひび割れのある道路で作動しているかの確認を実現しています。これにより、自動車の高度なシャーシ2制御システムや安定制御システムに情報をフィードバックし、車両を自動的に減速させたり、道路の状態に適応させたりすることができます。
しかし、自動車メーカーの立場からすると、仮に、センサーが故障した場合や、車両の安全性を制御するシステムに情報が正しく送信されなかった場合への対応に課題が残ります。また、タイヤからの情報伝達が突然遮断された場合、ドライバーの安全を損なわずに従来の安全システムを自動的に作動させるには、どのように車両のシステムを設計すべきかを検討する必要があります。
「まだ、システム障害が発生した場合に、常に安全を担保するように動作するフェイルセーフ設計ではないのです」と、タヘリ氏は語っています。
しかし新しい技術の導入には常に課題がつきものであり、これらの課題が解決されるのも時間の問題といえるでしょう。
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関連リンク:
パンクを回避するため空気を抜く!? 3Dが担ったタイヤ開発のイノベーション
https://blogs.3ds.com/japan/a-tire-revolution/
ダッソー・システムズ株式会社公式ウェブサイト「スマート・タイヤ」について: