Quantcast
Channel: ダッソー・システムズ株式会社 公式ブログ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 1439

製造時間を50%削減!3Dテクノロジーで切り拓く複合材料研究の可能性

$
0
0

2種類以上の材料を複合しそれぞれの長所をかけ合わせて優れた機能を実現させる先端複合材料―。米国インディアナ州にあるパデュー大学の複合材料製造シミュレーションセンターは長年、先端複合材料の開発と製造における課題に取り組む企業の研究者から注目されてきました。同センターの新たな姉妹研究所として2020年10月28日に、先端複合材料研究の3DEXPERIENCEエデュケーションCoE(センター・オブ・エクセレンス)が発足し、研究者の間で注目されています。

 

###

 

今日、世界中の研究者は、抗ウイルスワクチンから二酸化炭素削減に至る様々な技術の限界を押し広げるために、複雑な問題の解決に重点を置いています。パデュー大学では、新たな産学連携として、多くの課題を解決する鍵となり得る、高性能の複合材料製造の加速化とコスト削減という課題に取り組んでいます。

 

複合材料は強度が高くかつ低重量で、強度と重量のバランスが圧倒的に優れているため、気候変動の課題解決を支える様々な環境技術を実現する上で中心的な役割を果たします。例えば、カーボンゼロの電動航空機や電気自動車は、電気、太陽エネルギー、水素を動力源として十分な距離を移動できるほどの軽さ、安全性、耐久性に優れた強度を兼ね備えていなければなりません。風力タービンなど、再生可能エネルギー発電のために複合材料を用いる場合も同様で、わずかな風でも動く軽さと、突風にも耐えうる強度が必要です。

 

しかし、技術的な問題が妨げになります。例えば、繊維と樹脂の複雑な層を持つ複合材料は製造コストが高く、規制の厳しい業界ではその認証に何年も要することがあります。

 

2020年10月28日に、パデュー大学に正式に設立された先端複合材料研究の3DEXPERIENCEエデュケーションCoE(センター・オブ・エクセレンス)は、こうした課題解決に取り組む研究者の支援を目指しています。

 

インディアナ製造機構の会長、同機構の複合材料製造シミュレーションセンターのエグゼクティブディレクターであり、新たに発足した3DEXPERIENCEエデュケーションセンターCoEのディレクターを務めるR. バイロン・パイプス氏は「世界でもこのような研究教育施設は他にはありません。私たちのチームは世界トップクラスの専門家と研究者で構成されています」と述べています。

 

R・バイロン・パイプス氏 © R. Byron Pipes

 

3DEXPERIENCEエデュケーションCoEが掲げる2つの目的

同研究所は、第一に、複合材料とその挙動に関する理解を深め、3Dバーチャルモデリングとシミュレーションを課題に適用することで新たな発見を加速させることを目指しています。ダッソー・システムズが提供する3DEXPERIENCEプラットフォームは、3Dモデリングおよびシミュレーションで使うプロセスとデータをすべて管理し、研究者同士の連携を促進し、作業の全履歴を保持し、残されたタスクを全て把握します。

 

「私たちはこのプラットフォームの利用者であり、提唱者です。このプラットフォームには、複合材料の製造や製品性能のデジタルスレッド(製品やプロセスのライフサイクル全体におけるデジタル記録)が蓄積されています。従来、多くの研究所では製造シミュレーションを使わず、製品性能を検査するだけでした」と、パイプス氏は語ります。

 

同研究所設立の第二の目的は、現職および将来の科学者やエンジニアが、業務でモデリングやシミュレーションを最大限に活用できるように教育することです。

 

パイプス氏は、同研究所は、ボーイング社の元最高技術責任者(CTO)であるジョン・トレーシー氏が、2003年に世界初の複合材料を使用したジェット旅客機787ドリームライナーの製造を決めた際に示した構想を実現するものである、と話します。トレーシー氏と彼のチームは、複合材料を使ったジェット機の技術的課題を認識し、その解決にはデジタル設計・開発技術だけでなく、全く新しいエンジニアリング技術も必要であると考えました。

 

「人材開発は、私たちにとって常に、社会への大きな貢献の一つです。研究所で得られた情報をそのまま学生に届けます。それが知識を伝達する最短の近道であり、学生は研究所から直に届く最新の知識に基づいて行動できます」とパイプス氏は語ります。

 

パイプス氏は、トレーシー氏の構想を「問い」として表現します。

 

デジタルツイン(現実の世界に既に存在するか、これから生み出される予定の製品、システム、またはプロセスの科学的に正確な仮想のレプリカ)は、複合材料の製品を製造するための複雑なエンジニアリングプロセスも複製できるだろうか。それが可能だとしたら、エンジニアはデジタルツイン(および、データを動的な3Dモデルとして表示するバーチャルツイン)を製品開発の加速化だけでなく、開発コストの削減にも利用できるだろうか。

 

「パデュー大学は、こうした課題に取り組む人材を育成するとともに、そのための知見を深めています。この知見とは、先端複合材料システムの製造における未解決の課題を、デジタル技術を用いて解決することでもたらされます。デジタルツインの検証は極めて大きな課題です。しかし、新しい製造技術と統合されたデジタル技術を使えば、この課題に対処でき、先端複合材料製品の製造時間を50%削減できると考えています」と、パイプス氏は言います。

 

同研究所は、メーカー各社が先端複合材料の技術的課題を持ち寄り、その解決に必要なサポートを受けられる場所であり、3DEXPERIENCEプラットフォームは、全てのプロジェクトのデジタルスレッド全体を保持できるため、「課題の原因と解決策について基本的な理解を得るための手助けができます」と、パイプス氏は述べています。

 

デジタルテクノロジーを駆使した挑戦

炭素繊維強化材および樹脂系の主要メーカーのヘクセル社は、同研究所に最初の研究課題の一つをもたらしました。その課題とは、ヘクセル社が既存の商用、防衛用航空宇宙プラットフォームのサービス提供に加え、アーバン・エア・モビリティ(都市型航空交通)および無人航空機システムの市場進出に役立つ新しい熱可塑性複合材料を開発するというものです。ヘクセル社は、新たな複合材料のデジタルデータセット(デジタル情報の記録と蓄積)の作成を目指しており、同社独自の素材を使って構造を設計し、その構造をコンピュータで解析するのに必要なすべての情報を蓄積し記録しています。「新たな材料系のデータを事前に検証できるということは、新規市場への参入と既存市場での発展を促進するのに不可欠です。設計者が新しい素材、材料形態、製造プロセスをコンピュータ上でバーチャルに試みることができるようになれば、新たな材料系のイノベーションを加速できると確信しています」と同社の事業開発ディレクターであるボブ・ヤンシー氏は語ります。

 

炭素繊維プリプレグ(炭素繊維にマトリクス樹脂を含浸させたシート状の中間材料)の製造 (Image © Hexcel)

 

現在の複合材料市場の中では、熱可塑性複合材料が占める割合はわずかなので、非常に大きな市場としての潜在力があります。「当社の新しい熱可塑性複合材料の使用を検討する全てのお客様には、構造をコンピュータ上でバーチャルに設計し、自信を持って製造プロセスを策定できるデジタルデータセットを提供できるようにしたいと思います」と、ヤンシー氏は述べます。

 

ヘクセル社のようなプロジェクトを受けて、パイプス氏は「私の成功のビジョンは、サプライチェーンを構成する全員がこの活動に積極的に参加し、デジタル技術の使い方やデジタルスレッドの重要性を理解してもらうことです。3DEXPERIENCEプラットフォームはそのチャンスをつかむ鍵となるでしょう」と今後の段階を見据えています。

 

###

 

本記事はダッソー・システムズのCompass magazine(オンライン)からの抄訳です。オリジナル記事(英文)はこちら


Viewing all articles
Browse latest Browse all 1439

Trending Articles