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【没入型バーチャリティが本格普及】 VRやARを手軽に利用できるようになるにつれて、 ビジネス界はそこに強力な利用方法を見いだす

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低価格のビューア(視聴用の端末)が市場に投入された2016年は、仮想現実(VR)、拡張現実(AR)およびその他の没入型バーチャリティ(iV)全般に関する報道が盛りだくさんでした。しかしこうしたテクノロジーの「高級版」ともいえる上位技術が、これまで数十年にわたって世界最大級の企業の多くで利用されてきたことは、あまり知られていませんでした。iV分野への新規参入企業の学習曲線が上昇軌道に乗り始める一方で、こうしたイノベーションを主導する企業もリードを広げています。

 

兵士達は、通り過ぎる砂漠の景色をほとんど意識することなく、体をこわばらせて軍用車両の中に座っています。その時、予告なく道路で爆発が起こり、周囲は瞬時に黒煙と混乱に包まれます。

 

ただし兵士達がこの場面に初めて遭遇したときとは異なり、車両、景色、爆発のどれ一つ本物ではありません。彼らは、米国の南カリフォルニア大学クリエイティブ・テクノロジー研究所(Institute for Creative Technologies)で開発されたPTSD(心的外傷後ストレス障害)治療の一環として、VRビューアを着用し、診察室の中で追体験しています。

 

いっぽう欧州では、自家用車の購入を検討している人が、同じようなビューアを装着してオプションの組み合わせをあれこれ試しています。いま在庫があるオプションがわずかでも、検討後に自分の好みに完璧に合った車両を注文できます。

 

ある家ではカップルが家具の買い物のため、自宅のリビングルームで、VRモデルの中に配した仮想のソファの周囲を歩き回っています。ある工場では、作業員がメガネ型のAR端末を通してずらりと並んだ部品を見渡し、視野に表示される手順に基づいてそれらを組み立てています。

 

ごく短期間のうちに、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、複合現実(MR)を使用する新しい方法が、至る所で形になってきています。これらは総称して没入型バーチャリティ(iV)といわれます。

 

 

NVIDIA社のエンタープライズVR部門担当ディレクターを務めるDavid Weinstein氏は次のように述べています。「あらゆる業界から話を聞いています。VRは、医学、建築、教育、製品デザイン、小売りなど、日常生活全体にわたる分野に革命をもたらしています。NVIDIAはこれらの業界の企業やデベロッパーに向けて、最高レベルのパフォーマンスと、写真のように克明な描写や没入感を確実に実現し、企業が設計や製造のワークフローにVRを違和感を感じさせないビジュアルとして組み入れるソリューションに注力してきました」

 

成熟期を迎えつつあるVR

2015年7月、調査会社のガートナー社は、『先進テクノロジのハイプ・サイクル:2015年』において、ARとVRの両方が、過度な期待を背負ったテクノロジーが期待を満たせないときに起きる急激な落ち込みとして定義されている「幻滅期」に達したと分類しました。ただしこの時期にあることは、決して否定的な意味を持っておらず、ビジネス界がこれらのテクノロジーについて十分な経験を積めば、すぐに本当の生産性を実現する用意ができていることを示しています。

 

ちょうど1年後、ガートナー社が2016年版のハイプ・サイクルを公開したときに、オキュラス社、HTC社、グーグル社、サムスン社などが、低コストのスマートフォン・テクノロジーを使用して、幅広いユーザーの手が届く価格のヘッドマウントディスプレイ(HMD)を開発しました。ガートナー社はテクノロジーの実用性が拡大したことを確認して、VRを「啓蒙活動期」へ移動させました。ARは「幻滅期」に留まっていますが、「啓蒙活動期」に近い方へ移動されています。

 

ガートナー社のサイクルにおいて、VRとARは次に、採用率が市場潜在力の20~30%に達したときに「生産の安定期」に進みます。ガートナー社は、VRとARが日常業務の一部になるまで、あと5~10年かかると予測しています。

 

「VRではコラボレーションを利用したアプローチが促進されます。コラボレーションを行うには文化を変えることが必要で、 始めるのは早ければ早いほどよいのです」

PASCAL THEROND氏
KALISTA 社共同創業者

 

国際的金融企業のゴールドマンサックス社は、ARとVRに関する2016年の『Profiles of Innovation』というレポートで、どちらのテクノロジーについても大きな成長を予見しています。2016年の売上はほとんどハードウェア販売が占めていますが、ゴールドマンサックス社のの予測シナリオの一つでは、2025年までのiV関連売上高は800億ドルで、その内訳は、ハードウェアが450億ドル、ソフトウェアが350億ドルとなっています。

 

ゴールドマンサックス社は、支出の75%がVRに集中し、25%がARに向けられると予測しています。また、支出の54%が消費者向け用途没入型バーチャリティが本格普及VRやARを手軽に利用できるようになるにつれて、ビジネス界はそこに強力な利用方法を見いだすに、46%が企業および公共部門向け用途に費やされるとしています。

 

 

iVを表わす曲線の背景

CAVE(Cave Automatic Virtual Environment 訳注:暗室内にプロジェクタとスクリーンで構築されるVR環境)が発売された1992年には、VRテクノロジーを利用できるのは資金力のある大企業や組織だけでした。しかし現在では、長年にわたる研究開発と投資によって、あらゆる規模の企業がVRを利用できるようになってきています。

 

HTCViveのB2Bバーチャル・リアリティ部門バイス・プレジデントであるHervé Fontaine氏は次のように述べています。「手ごろな価格のHMDを開発するべく数年にわたって取り組んだ後、ゲーム向けだけでなく、情報を操作する新しい手段としても実用化できました。『フラットな(二次元の)』情報だけでなく、3D化された情報データを操作できるので、本物に見えます」

 

すでに多くの企業がiVを日常業務に取り入れ始めている中、遅れを取り戻すために使える時間はそう長くないなってきているという点に関して専門家の意見は一致しています。

 

フランスとイギリスに事務所を置くコンサルティング企業Kalista社の共同創業者で、小売り分野のマーチャンダイジングを専門としVRにも詳しいPascal Therond氏は、次のように述べています。「仮想現実を利用するには、企業における仕事のすすめ方を根本的に変える必要があります。そのための業務プロセスや習慣を変えるのには時間がかかります。多くの組織がまだ縦割りの体制で仕事をしていますが、VRではコラボレーションを利用したアプローチが促進されます。コラボレーションには企業カルチャーの変革が必要で、単なる組織変更の場合よりも、さらに多くの時間がかかります。そのため、始めるのは早ければ早いほどよいでしょう」

 

「そのうえで、私たちはまだVRとARの初期段階にいるので、競合に先んじた状態を維持し、学習曲線を乱すおそれのある要因に対処するため、試行錯誤しながら会得すべき事柄が数多くあります」(Therond氏)

 

iV:変化をもたらすエクスペリエンス

iVが強力であるのは、感情に訴えるエクスペリエンスを作り出すためです。こうしたエクスペリエンスは、その他のいかなる手段よりも変化を引き起こす力を持つことができます。

 

英国シェフィールド大学のInsigneo Institute for insilico Medicine(コンピュータを利用した医学の研究所)で医学物理学の講師を務めるJohn W.Fenner氏は、「VRを経験したことのない人に説明するのは不可能です」と述べました。この研究所は、人体のあらゆる器官をコンピュータで作成する精密なモデル、『Virtual Physiological Human(VPH:生理学的バーチャル・ヒューマン)』の開発を目的としたEUの取り組みを支援しています。

 

「VRは間違いなく、一般の人たちを研究の場に連れてきて、研究者が何を何のためにしているかを理解してもらう助けとなり、彼らに忘れられないエクスペリエンスを与えられる強力な方法です。複雑な技術的研究の内容を伝えるのは難しい場合もありますが、VRで見せれば、その人たちは目で確認することにより見た内容を明確に理解できます。これは強力な手段です」とFenner氏説明します。

 

 

そして現在では、HMDのおかげで、どこでもVRを利用できるようになっています。

 

「もはやCAVEは必要ありません」とFenner氏は述べました。「グーグル・カードボードを使えば携帯電話でVRを利用できます。VRが日用品になって皆が持っているようになった場合、すべてが変わることになります。たとえば臨床医と患者とのやりとりには、多くの時間が費やされます。しかしこの新しいVRにそうした状況を変える可能性があると考え、多くの人々が当研究所を訪れています」情報を伝達するiVの力は、あらゆるレベルの教育機関の注意も引き付けています。

 

zSpace社は、教育機関や医療機関に「卓上型CAVE」とも言えるVRシステムを提供しています。子供たちは、既にある3Dモデルのライブラリを参照して、デジタルのカエルを繰り返し解剖することができます。同じ回数の解剖を実際のカエルの生体を使用して行うのはかなり困難です。また医療分野では、すべての人に当てはまる理想的な心臓について考察するのではなく、患者本人の心臓をモデル化し、VRで異常がないか検査することができます。

 

zSpace社で戦略的ビジネス開発担当のバイス・プレジデントを務めるPeteJohnson氏は、次のように述べています。「実際のデータから構築しようとしているのは、まさに『患者自身の』心臓であり、それによりリスクを冒すことなく繰り返し実験を行うことができます。この弁とそちらの弁の置換術をしたらどうなるか、手術部位への最適な道筋は、といった課題を実験で検討できます。実世界を複製できれば、たくさんのメリットがあるのです」

 

先陣を切るB2B企業

医療と教育の分野でiVが地歩を固めているときに、企業はiVを利用して、複雑なプロセスを実行したり、ビジョンを伝達したりしています。

 

3Dで設計を行うB2B企業は、以前は2Dのコンピュータ画面でのみ表示可能であった、幾何学的に正確なモデルのライブラリを大量に所有しています。iVを利用すれば、これらのモデルを使用して、豊富な情報を利用した製品設計から、変化をもたらす力を持つ販売戦略やマーケティング戦略まで、無限の可能性を拓く完全に没入型のエクスペリエンスを動かせるようになっています。

 

ブラジルに本拠を置くエンブラエル社は、iVを複数回繰り返して、自社の航空機設計を完全なものにするために利用するリアルな仮想環境を生成することによって、すでに先を進んでいます。

 

米国フロリダ州にあるEmbraerEngineering&TechnologyCenterUSAでマネージング・ディレクターを務めるPauloPires氏は、「当社が最初に導入した仮想現実の応用例はCAVEソリューションでしたが、VRモデルを見ることができるのはその場に出席しているメンバーだけであり、かつモデルを操作できるのも1人のシステムユーザーに限られていました」と述べています。しかしエンブラエル社の新しい複合現実ルームでは、そうした制限はなくなっています。

 

「会社の3DCADモデルと没入型の設計レビュープロセスを統合した、シンプルかつシームレスなシステムになっています。当社は、デジタルコンポーネントと物理モデルの両方から構成される仮想空間で実施する没入型設計レビューを通して、製品開発をスピードアップしてきました。参加者は仮想モデルを操作し、物理的にどこに居るかを問わず、およそ10人強の他のチームメンバーとやり取りができます。参加者全員が同時に、さまざまな設計構成を調べて注釈を付けることができます」(Pires氏)。

 

Pires氏は、仮想現実でのコラボレーションは大きなメリットを生み出していると述べました。「内装作業場や金属加工所に加え、3Dプリンティングにおいても、物理モデルの作成や評価に要する時間と予算を節約できていることはすでに把握しています。投資に見合ったメリットが実現されて、製品開発を効率的にスピードアップするという投資の主な目的が実証されています」

 

エンブラエル社で次に計画されているのは、iVをすべての生産プロセスと航空機メンテナンス手順の計画策定とシミュレーションに適用すること、およびプライベートジェット機のインテリアデザインにiVを適用し、クライアントと協力して専用のデザインを作成することです。

 

拡張現実による製造の簡素化

iVソリューションの産業プロセスへの導入支援を専門とするDiota社(フランス)は、企業が従来使用していた作業手順書のARへの置き換えを支援することで、製造の精度と生産性の向上を図っています。

 

タブレット、AR投射システム、またはDiota社のソフトウェアを備えたメガネ型デバイスで作業用の部品が表示されるときには、部品そのものの上に作業指示が表示されます。作業員は、実行中の作業から目を離し、手順書で次を確認する必要がなくなります。こうした表示によって、次の手順で穴開けや切断を行う正確な位置を見つけたり、適用するトルク量を把握したりすることができます。

 

Diota社共同創業者であるLionnelJousseme氏は次のように述べています。「作業員は、何らかの非常に複雑な作業を実行する必要があります。重要なのは、実行すべきことを彼らが理解することです。拡張現実を実際の環境に合せて導入するときには、作業員がこのテクノロジーを歓迎し、積極的に適応していることが分かります」

NVIDIA社では、Weinstein氏がARに対する同様の熱意を目にしています。

 

「私は、プロ向けの用途ではARがVRより優位を占めるだろうと考えています。いつもHMDを装着して仮想世界へ行く、というのは気が進みません。実世界に情報を重ねるだけに留めたい場合が数多くあります。皆が、画像をオーバーレイ表示するメガネを掛けることに慣れることになるでしょう。たとえば、工場の作業現場で供給量を確認したり、天井裏の配管の場所を確かめたりすることができます」(Weinstein氏)

 

iVで消費者に喜びを

消費者指向の環境では、iVによって即時かつ継続的なフィードバックループを実現できるため、企業は購入者によりいっそう喜びを与えられるようになります。

 

住宅やオフィスの開発を専門とするフランスの企業、AltareaCogedim社でマーケティング担当バイス・プレジデントを務めるThomasPenet氏は、次のように述べています。「お客様にとって、2Dの図面を理解するのは容易ではないことは分かっています。そのため徐々に、ウェブ上でバーチャルのアパートを訪問する機能を持つ3Dソリューションを導入してきました。VRの実装は、その機能を引き続き進化させたものです」

 

AltareaCogedim社の顧客は注文した住宅やアパートが建設される前に、VRを使って完成後の受け渡しモデルを理解できます。VRは、双方にとって取引に好ましくない驚きが起きないよう貢献しています。

 

iVは、小売業者や消費者向け製品メーカーが、最大限の効果をあげられる展示方法を計画するのにも役立っています。購買行動に対応するイノベーションに注力する北フランスの研究所、Silab社は、iVを利用してより快適なショッピング・エクスペリエンスを創り出しています。Silab社はVRヘッドセット、視線追跡ソリューション、CAVEを組み合わせて使用し、消費者が店舗ディスプレイにどのように反応するかを測定します。これは小売業者や製品メーカーが必要とする機能です。

 

Silab社の開発担当ディレクターJeanMichelFlamant氏は、次のように述べています。「私たちはCAVEと(ダッソー・システムズの)『パーフェクト・シェルフ』ソリューションを使用して新しい店舗デザインを検証しています。この方法で非常に高い生産性を実現できています。以前は、物理的なレイアウトに問題が見つかった場合、売り場を一から作り直す必要がありましたが、今はVRを利用して、バーチャル環境で製品を並べ直したり、一部の棚を移動したりして、新しい店舗ディスプレイを試す準備を整えています」

 

導入拡大中のiV

今後、中小企業がiV機能を試し、大企業も引き続きその利用範囲を拡大していくにつれて、iVの応用領域は拡大していくしょう。HTC社のFontaine氏は次のように述べています。「過去18ヵ月で、状況は非常に大きく前進しました。一般的な企業の要件に適合するように特に設計されたViveBusinessEditionのようなHMDによって、CAVEの数百分の一のコストで、ビジネス環境にVRがもたらされました。これは、VRが初めて、大企業の専有物ではなくなったことを意味します。小規模な下請け企業やパートナー企業もVRを利用できるようになったのです」

 

新しいモデルを設計し、構築するには、自動車分野や航空宇宙分野のメーカーのような大企業が、そのサプライヤーやパートナー企業とコラボレーションを行うことが欠かせないため、こうした拡大が重要だとFontaine氏は指摘します。

 

「当初の用途は主に視覚化に関連していますが、VRによって大規模に、遠隔地間のコラボレーションを『一緒に行う』ことが可能になります。計画された、物理的に出席する会議から、顧客さえ含めて、各地に分散した参加者との間で実施するインスタント・ミーティングに移行できます。これは電子メールからインスタント・メッセージングへの急速な移行に匹敵する変化です。VRは、場所を問わずコラボレーションを利用し、迅速に、かつより優れた方法で仕事を処理するビジネスツールとして、急速に普及する準備ができたのです」とFontaine氏は最後に述べています。

 

著者: 著者: Joseph Knoop


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