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ウイルスのメカニズム:コロナウイルスの分子構造の可視化で”見えてくる”もの

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「科学者」という言葉を聞いて、思い浮かぶイメージはどのようなものでしょうか。白衣を着て髪を乱した研究者が、実験を成功させるまで何度も失敗を繰り返すイメージを思い浮かべる人も多くいるのではないでしょうか。

 

私は幼少期から、世間が抱く科学者のイメージに違和感を抱いていました。試行錯誤の末に偶然的な発明をするのではなく、明確な目標の下で確実な結果を目指して研究をするといった、系統的なプロセスがあるはずだと信じてきました。このような数学に基づいた合理的な科学としての物理学に惹かれ、そこから医療の世界にも魅了され、博士課程で生物物理学の研究を行い、博士号を取得しました。生物物理学では、疾患とその治療が及ぼす作用を観察するだけでなく、分子レベルでそれらを理解することが重要になります。

 

今日では、物理学ベースの予測ソフトウェアによって分子のモデリングは大きく進歩し、コロナウイルス(COVID-19)用のワクチンをいち早く発見する取り組みに寄与しています。本稿ではそれについて具体的な事実を交えながら紹介します。

 

コロナウイルスのモデリング

新型コロナウイルスの感染拡大によりパンデミックが発生して以来、世界中の科学者はコロナウイルスの分子構造を理解することが、ウイルスの究明に近づくと主張しています。このような科学者たちは、ウイルスの分子構造を可視化するため、3次元分子モデリングを活用し、ウイルスに関する仮説を立てています。仮説を基に、医薬品設計のための研究プロセスを加速し、従来よりも短い期間で、将来性のある治療方法を臨床試験段階へと移行しています。

 

Image © JHDT Productions / stock.adobe.com

 

ウイルスを構成する最も重要な要素は微小のため、電子顕微鏡を使っても見ることができませんが、ウイルスを構成する主要なタンパク質をソフトウェアによってモデル化し、科学的に正確な3Dモデルを表示する方法があります。この方法は、ウイルスが生物に付着して増殖し感染を引き起こすメカニズムを可視化するのに役立つものであり、さらに既存の分子に関するデータを使って感染を防ぐ可能性が最も高い化合物や、生物学的製剤を特定できるようになります。

 

実験を基に導かれた科学的証拠の方が説得力もあることから、しばしば3Dモデルを導き出すアルゴリズムを実験データで検証することがよくありましたが、新型コロナウイルスの発生は、このアルゴリズムが優れていることを検証する重要な機会にもなりました。

 

論理の軌跡

新型コロナウイルスの配列は2020年1月までに解析されており、そこからいくつかの研究機関が実験を行い、新型コロナウイルスのタンパク質の構造に関する情報を提供しました。私は、SARS(COVID-19を含むウイルスの種類)の知見に関する学術論文を全て読み、ウイルスの働きの中核となるタンパク質を攻撃する手掛かりを探りました。

 

そこで私は、タンパク質の構造に基づく「構造ベースの医薬品設計」を利用できない科学者が感染プロセスにおいて重要な標的タンパク質をより深く理解し、その洞察を新型コロナウイルスに対して再利用できる可能性のある既存の医薬品を合理的に特定する作業にいかに役立てるかを説明するブログを執筆しました。文中では、世界中の薬学やバイオテクノロジーに関わる大学の研究室の科学者たちと同様、主要な3C様プロテアーゼ(ウイルス増殖の鍵となるタンパク質)に着目しました。プロテアーゼ阻害剤はHIVおよびC型肝炎ウイルスの治療でも活用されている確立された治療法でもあり、プロテアーゼの「活性部位」に結合できる低分子阻害剤(分子量300~500と比較的小さい薬剤)を活用すれば、ウイルスの増殖を防ぐことが可能になります。

 

この3Dモデリングによって、アメリカ食品医薬品局(FDA)の全2,684種類の承認薬の中から、効果が見込まれる少数の化合物をすぐに特定することができました。上位スコアの化合物のいくつかは、現在コロナウイルスの治療薬として臨床試験を受けています。

 

発見を加速

パンデミックが起こったことで、科学者たちにとってユニークなコラボレーションの環境が作り出されることになり、各々の研究結果を速やかに共有できるようになっています。以前であれば、自身の仮説が証明されるか反証されるかを知るのに何年も待つことが一般的でしたが、自身のブログを公開した数週間後に、複数のプレプリント(正式な査読を受ける前の段階で、オープンアクセスプラットフォームに登録・公開される学術原稿)や論文が公開されるなど、仮想実験で特定した化合物の一部分については、有望な実験結果も報告されています。科学において数週間というのは極めて短期間であり、これはウイルスへの対処が驚くべき速度で進んでいることを示しています。

 

このパンデミックの抑制においては、感染者の治療以上に、感染を防ぐためのワクチン開発が不可欠です。構造生物学は、治療という側面だけではなく、免疫反応を広く獲得できるワクチンの開発においても、中心的役割を果たすことが立証されています。

 

ウイルスがヒト細胞に侵入できるように作用するスパイクタンパク質の配列が1月に中国の科学者によって公表されました。これを受け、世界中の科学者がこれまでにない短い期間で3D上に原子レベルのモデルを作成し、これを通じてワクチンとして使える安定性のある変異体を合理的な形で設計しました。この原子レベルのモデルも、ウイルスがヒト細胞に侵入するのを防ぐ可能性のある抗体を把握するのに、不可欠な要素となります。

 

私が何年も前に夢見ていたように、このような治療法は、理論のない盲目的希望からではなく、ウイルスタンパク質の分子構造をしっかりと理解した科学者のコラボレーションによって生み出されているのです。

 

ダッソー・システムズのコロナ禍での取り組みの詳細は、以下のリンクでご確認いただけます。
https://ifwe.3ds.com/ja/caring-for-people-committed-to-the-world

本記事はダッソー・システムズのCompass magazine(オンライン) からの抄訳です オリジナル記事(英文)はこちら

 

著者:Anne Goupil-Lamy

ダッソー・システムズの分子モデリングおよびシミュレーションブランド「BIOVIA」のサイエンスカウンシルフェロー。フランス・パリにあるピエール・マリー・キュリー大学で分子生物物理学の博士号を取得。BIOVIAでは長年委託研究を任され、現在は科学者がBIOVIAのソフトウェアを研究に利用できるよう支援している。また、独自の研究プロジェクトにも携わっており、学術チームと協力して査読審査のある専門誌に定期的に発表している。

投稿 ウイルスのメカニズム:コロナウイルスの分子構造の可視化で”見えてくる”ものダッソー・システムズ株式会社 公式ブログ に最初に表示されました。


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