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パンクを回避するため空気を抜く!? 3Dが担ったタイヤ開発のイノベーション

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(Photo by Steve Fecht for General Motors)

 

タイヤ業界の目下の課題は、電動化や自動運転に最適なタイヤを開発することです。移動手段が急速に進化する今、デジタルシミュレーションを活用することで、多様な構造や材料の試験・試作が容易となり、タイヤの製造に革命が起きようとしています。

 

「自動車の中で最も重要なパーツはタイヤである。何故なら、車の部品の中でタイヤだけが唯一、地面に直接接しているからである」と、自動車業界では古くから冗談として、自動車メーカーがこれまでタイヤ設計の改善にあまり注力してこなかったことを揶揄されてきました。

 

ところが、これはもはや冗談ではなくなっているのかもしれません。自動車業界が電気自動車や完全自動運転の登場に向け準備を進める中、これまで隅に追いやられていたタイヤのハイテク化も急ピッチで進められています。「自動車業界では実際に、タイヤがこれから重要な役割を担うことが明らかになってきています」と、米オハイオ州アクロンを拠点とするブリヂストンのデジタルエンジニアリング部門ディレクター、Hans Dorfi氏は述べています。

 

新種の車に必要なのは新種のタイヤ

自動運転車には、ハンドルが必要ありません。そのため、車の利用者は単なる「乗客」となり、タイヤのパンクを修理したくもないし、するつもりもなくなるでしょう。この傾向は、今後人々が車を所有しなくなり、一定時間だけ車を借りたり、オンデマンドで配車サービスを利用したりするようになるにつれ、一層顕著になるでしょう。そこで、タイヤメーカーはエアレスタイヤの開発・導入や、万一タイヤに穴が開いても修理までの短時間なら完全にパンクするのを避けられるシーラント剤を注入したタイヤの開発・導入を進めています。

 

しかし、タイヤメーカーはパンク防止だけに注力しているわけではありません。電気自動車は、動力源となるバッテリーの重量によってかなり重たくなります。この重さがタイヤの磨耗や損傷を早める原因となっているため、前輪と後輪の車軸を別々のモーターで駆動するタイプや、それぞれのタイヤに個別のモーターを付けているものもあります。またタイヤの損傷がより早まることから、より耐久性に優れた新素材へのニーズも一層高まっています。

さらに、将来的にはライドシェア用の自動車の1日あたり稼働率は90%に達し、個人所有の自動車の1日あたりの稼働率(10%)よりも高くなります。そのため、ライドシェアの普及はタイヤの損傷を早める決定的な要因になるとされています。

 

デジタルシミュレーションの導入

タイヤメーカーは、これらの課題を適切に予測して対処するためにバーチャル・シミュレーション用ソフトウェアを導入し、自社のソリューションの実効性を検証しています。「デジタルツールの活用には、2つのメリットがあります。1つは、特定の用途に合わせて製品を設計できる点、もう1つは製品検証のために従来必要とされていた多くの反復作業を省くことができる点です」とDorfi氏は語っています。

ブリヂストンのDriveGuardは、パンクした後でも一定距離を走行できるように設計されている(Image ©Bridgestone)

 

デジタルシミュレーション用ソフトウェアの性能が向上したことにより、タイヤメーカーはタイヤが直面する可能性があるありとあらゆる状況についてシミュレーションし、実際の製造に着手する前段階から、デジタル環境で現実世界の状況に合わせて、新たに設計したタイヤの性能を検証できるようになりました。

 

米バージニア州ブラックスバーグにあるCenter for Tire Research (CenTiRe)では、でこぼこ道や、凍結路面あるいは滑りやすい路面を走行する際の操作や快適さに関する検証、さらにはタイヤから発生するノイズの測定を行っています。特に電気自動車向けのタイヤの場合には、転がり抵抗(タイヤなどの円筒状の物が転がるときに、進行方向と逆向きに生じる抵抗力)もシミュレーションには欠かせない要素であり、転がり抵抗が低いほど走行可能距離が延び、バッテリーの持ちが良くなります。

 

研究者が検証しなければならないコンディション、設計、材料などの要素が多岐に渡ることを考えると、シミュレーションの実行速度の重要性はますます高まります。CenTiReのマネージングディレクターであるRon Kennedy氏は、「さまざまな設計モデルを、できるだけ短時間で数多く評価したい。1日当たり1モデルでは十分なスピードとは言えません。1日に3~4モデルを実行するスピードが必要なのです」と述べています。

 

 

空気を入れないタイヤ

ミシュランはシミュレーションを活用し、パンクしないUPTIS(Unique Puncture-proof Tire System)タイヤを開発しました。UPTISはインナーチューブを持たず、空気を一切含みません。つまり、このタイヤを採用する自動車メーカーは自社製の車にジャッキやスペアタイヤを積載する必要がなくなるため、軽量化とコスト削減を実現できます。UPTISは、パンクすることがないので安全性が高いことも最大の特長であり、早ければ2024年にゼネラル・モーターズの乗用車に導入される見込みです。

 

ミシュランはUPTISについて、「ドライバーの大多数は、感覚的にも性能的にも、従来のタイヤとの違いに気付かないだろう」と述べています。

 

UPTISの共同考案者で、ミシュランの上級主席製品リサーチエンジニアを務めるSteve Cron氏は、「一から新たに設計する状況では、シミュレーションは非常に重要です。UPTISのスポーク(車輪を構成する部材)には新素材の繊維ガラスが使われていますが、この新素材は断面が円形で細長い紐のような形状をしています。この素材を含む合成ゴムでできたスポークの形状を最適化する際に、シミュレーションは大いに役に立ちました。」と振り返っています。

 

 

その他にもバーチャル・シミュレーションは、UPTISの力学的な構造把握にも活用されました。エンジニアは、ホイールの路面に接する部分だけではなく、空気入りタイヤに使用されている全てのパーツ(上部、底部、側面、スポーク)が車両の重量をどうやって支えているのか、その方法をバーチャル・シミュレーションで模倣しようと試みました。Cron氏は、「シミュレーションなくして、この方法を解明することは不可能でした。これらのツールを活用することは必要不可欠なことなのです」とシミュレーションの重要性を話しています。

 

ダッソー・システムズの自動車業界向けのソリューションの詳細は、以下のリンクでご確認いただけます。

https://ifwe.3ds.com/ja/transportation-mobility

 

本記事はダッソー・システムズのCompass magazine(オンライン) からの抄訳です オリジナル記事(英文)はこちら


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