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【エクスペリエンスの声】Kevin Hallock氏 ファイザー社ビジュアリゼーション/モデリング研究者

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化学者、生物学者、臨床医の3人が一緒に部屋に入り、あるタンパク質をどのように説明するのかについて、意見をまとめようとします。ちょっと聞いただけでは、何かの冗談と思うかもしれません。

 

 

ただしファイザー社にあるその部屋には、タンパク質や人間の生理学的なモデルを3Dの巨大なバーチャル映像で表示し、研究者たちが映像の中に没入できる設備が備わっています。その成果は冗談どころか素晴らしいものです。研究者たちは複雑なデータがもたらすものへの理解を深め、課題を共有できるため、研究をより効率的に進めることができます。その結果が成功であれ失敗であれ、VRを使わなかったときよりも、ずっと早く結果が分かるため、何らかの発見に至るまでに、うまくいかないものを速やかに排除していくことができます。

 

見ることで認識を共有できる

タンパク質は創薬に必要不可欠です。こうした複雑な立体分子構造には、多くの場合「活性部位」と呼ばれる部位が存在します。この部位では、必須の化学反応が起こる中でタンパク質の標的への結合が形成されたり破壊されたりします。医薬品の開発過程では、活性部位の挙動を変えたいという場合も多いのですが、タンパク質のしくみを解明するのは容易ではありません。さまざまな専門分野の同僚たちとこうした反応について議論するのも、同じように大変な作業です。なぜなら、化学者、生物学者も臨床医も、それぞれが同じ問題を異なる切り口から話すからです。

 

そこで、タンパク質のあらゆる部分を全員が同時に見られるようにすれば、2次元画像をたくさん使って複雑な説明をする必要がなくなり、コラボレーションが促進されます。VRを介してお互いに新しい知識も提供しあえるため、プロジェクトでそれぞれが担当する作業を全員が共同で素早く進められます。

 

臨場感あふれるVRの登場によって、既存のツールも活きてきます。研究者はX線結晶構造解析法や分子力学シミュレーションを用いてタンパク質の構造をコンピュータのディスプレイに表示できますが、タンパク質の立体構造全体を一度に見ることはできません。しかしVRを使えば、こうしたデータもすべて表示できます。VRを活用することで、研究者たちは分子を自動車の大きさにまで拡大表示し、さまざまな角度から捉えて検証できます。シミュレーションも繰り返し実行し、さまざまな角度から表示できます。複数のタンパク質構造を重ね合わせれば、微妙な違いも適切に把握できます。そして臨場感あふれるシミュレーションを同僚と一緒に見ながら、「ここを見て。わかる?」といった会話ができるのです。

 

2次元情報の不足を補う

科学的な研究でバーチャル・リアリティが活きてくるもう一つの分野が神経解剖学です。人間の脳には数十億に及ぶニューロンによって神経回路が構成されており、それぞれの接続部の数は桁違いです。

 

MR(I磁気共鳴画像法)を用いると脳の構造や機能を見ることができますが、立体的な脳も現状では二次元の断面図でしか表示できません。そのため、全体を把握するには、二次元の断面図を順次確認していき、どこでどのようにパターンが出ているのかを頭の中で考える必要があります。優れた放射線専門医であればこうした考察も可能ですが、建築家や建設業者が二次元図を頭の中で立体的な建物に移し換えられるのと同じで、長年の経験と慣れを要します。

 

MRIからVRへの変換は自動的には行われませんが可能です。何十年も経験を積んだ脳外科医でも、臨場感あふれるVR環境で初めて脳を見ると驚きます。VRが臨場感あふれるものであれば、自分が壁に囲まれた部屋の中にいることを忘れてしまい、興味を持ったアイテムに向かって動きながら壁にぶつかってしまう人は一人や二人ではありません。それは誇張された映画のようですが、あなたは観客席に座っているのではなく、映画の真っ只中にいます。

 

VRを使えば、自分の身長がわずか2ナノメートルだったら、あるいは身長が20フィート(6.1.メートル)あったら、分子がどのように見えるのかを体感できます。視点を変えて理解を深められるようにして、新たに進むべき道を見極めようと努力している研究者を後押しします。

 

ラーニングカーブに沿って全速力で飛ばす

ファイザー社がバーチャル・リアリティ(VR)研究室を開設した当初の目標は、テクノロジーに何ができるのかを学ぶことでした。経験による強みも欲しかったのですが、今ではあらゆる専門分野を超えてバーチャル・リアリティにますます注力し、それを十分に活用する態勢が整っています。非常に多くの社員が臨場感あふれるバーチャル・リアリティに向き合い、その優位性を広く人々に啓蒙することにより、社会的意義もも見出しているかもしれません。

 

始めたころはヘッドマウントディスプレイ(HMD)が間もなく発売されるところだったので、やってみることが大切だと認識していました。今は機材が整い、本当にわくわくして
います。

 

科学を基盤とする多くの企業がVRを使えば、より多くのソフトウェア企業がそれをサポートするようになり、誰もが自分のデータを簡単に視覚化できるようになります。そうなれば、研究者は自由に利用できる膨大な量の情報をより簡単に、そしてより迅速に取捨選択し、調査・認識できるでしょう。「発見すること」の意味が変わり続けていく可能性があります。そしてそれは創薬だけでなく、教育やコミュニケーション、人知の未来にとっても、わくわくするような展望なのです。◆

 

 

プロフィール

KevinHallock氏はファイザー社のQuantitativeMedicineラインのシニア・マネージャーです。Hallock氏はモデリングやビジュアリゼーションを主導し、ファイザー社のビジュアリゼーションセンターやその他のモデリングプロジェクトも率いています。

 

Hallock氏は、固体核磁気共鳴法を用いて機械的に並んだ脂質二重層で自然発生する抗菌ペプチドを研究し、米国ミシガン大学で物理化学と生物物理学の博士号を取得しました。米国ボストン大学医学部で博士課程終了者向けの磁気共鳴顕微鏡法や磁気共鳴映像法のトレーニングを受け、磁気共鳴法を発展させてミバエからヒトまでを対象とする生体の研究を行ってきました。


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