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IoTに向けたワイヤレス給電 〜インターネット接続デバイスの増加によって 新しい発電方法の必要性が高まる〜

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ますます増加するインターネット接続デバイスへの給電は、特に費用や不便さのことを考慮に入れると、容易に解決できる課題ではありません。時には、リモートデバイスに電力線をつないだり、バッテリーを取り付けたりするのが不可能な場合もあります。こうした状況にあって、エネルギー・ハーベスティング(環境発電)の新しい方法が、「モノのインターネット」に電気を供給するという課題に対する解決策になると見込まれています。

ますます増加するインターネット接続デバイスへの給電は、特に費用や不便さのことを考慮に入れると、容易に解決できる課題ではありません。時には、リモートデバイスに電力線をつないだり、バッテリーを取り付けたりするのが不可能な場合もあります。こうした状況にあって、エネルギー・ハーベスティング(環境発電)の新しい方法が、「モノのインターネット」に電気を供給するという課題に対する解決策になると見込まれています。

 

ブドウでデバイスの電気をまかなえているところを想像してみてください。ばかげているように聞えるかもしれませんが、米国オレゴン州の州立ポートランド大学でシステムエンジニアリングの非常勤助教授を務めるJohn Blyler博士によれば、それは既に可能になっています。

 

Blyler博士は次のように述べています。「今では、小さなブドウ数粒で、超低消費電力型の電子機器を動かせます。数年前には、世界的半導体企業のテキサス・インスツルメンツ社が、ブドウが動力源のデジタル時計のデモンストレーションを行いました。時計に内蔵された16ビットのマイクロプロセッサーが必要とするエネルギーは非常に少なかったので、数粒のブドウからのエネルギーで動作可能でした。ブドウに含まれる微量の酸が亜鉛の金属接点と組み合わさって、時計の動力源になるバッテリーが形作られたのです」

 

数粒のブドウでデジタル時計を動かすことができる、pHに基づく同様の化学反応は、畑の作物にも利用できます。作物で、農家のコンピューターに土壌状態の報告を無線送信できる小型の無線周波数(RF)回路に電力を供給できるのです。「これは、代替え電力供給源を提供するために、どのようにエネルギー・ハーベスティングを利用できるかという点では、出発点にすぎません」とBlyler博士は述べています。

 

モノのインターネットへの 電力供給

電源の配線が難しいデバイスの代替え電力供給源を見つけることは、研究者の優先課題となっています。これは主として、「Internet of Things (IoT)」(モノのインターネット)が姿を現してきたためです。ネットワーキングテクノロジーの世界的リーダー企業であるシスコ社によれば、世界では2020年までに、インターネットに接続されたデバイスの数はインターネット接続を利用する人の10倍になります。このとき、インターネットに接続された人は50億、接続されたモノは500億を超えます。

 

「今では、小さなブドウ数粒で、 超低消費電力型の 電子機器を動かせます。 これは、代替え電力供給源を 提供するために、 どのようにエネルギー・ ハーベスティングを利用できるか という点では、出発点にすぎません」

JOHN BLYLER博士
州立ポートランド大学 システムエンジニアリング非常勤助教授

 

米国ワシントン大学電気工学部の博士号取得候補者Vamsi Talla氏は、次のように述べています。「大量のIoTデバイスであふれる世界が近づいてきているので、これらのデバイスに電力を供給する手段が大きな問題になりつつあります。1,000個まではいかなくても、数百個のセンサーがある部屋を考えてみてください。これらのセンサーがすばらしいのは、多数の用途に役立つためで、スマートホームやスマートシティを実現したり、農家の畑の土壌温度を監視したり、製造工場で液体製品の流れや液面レベル、粘度を追跡したりします。可能性は無限です」

 

ただし、これらのセンサーに電力を供給することが課題だとTalla氏は指摘します。「配線するのは現実的でなく、バッテリーの場合は定期的に交換を必要とし、コスト、サイズ、重量が増加します。これは大きな障害です。なので、バッテリーをなくして、代わりにハーベスティングによるエネルギーを使ってデバイスに給電することができれば、IoTデバイスの大規模な採用と展開が実現し、最終的にはIoTの夢がかなうことになります」

 

500億

シスコ社は、2020年までに、インターネットに接続されたモノが
世界で500億個を超えると 予測しています。

 

今まで外部電源不要のデバイスは、三つの主なエネルギー源に頼ってきました。ドイツ・ミュンヘン近郊に本拠を置き、特許を取得した電源内蔵型ワイヤレステクノロジーを開発しているEnOcean社でプロダクト・マーケティング・ディレクターを務めるMatthias Kassner氏は次のように述べています。「その一つは運動エネルギーで、側方運動、回転、または振動によって電磁式または圧電式のハーベスター(発電機)を作動させ、電気エネルギーを生成できます。2つ目は熱エネルギーで、近距離の温度差を電気エネルギーに変換できます。3つ目は、化学系や生体電気系はもちろん、光や電磁波などを含む身の回りのエネルギー源です」

 

振動から取り出すエネルギー

研究者は3つの領域すべてで大きな進歩を遂げてきました。たとえば運動エネルギーの分野では、イギリス・サウサンプトンに本拠を置く、振動エネルギー・ハーベスティングの主要企業であるPerpetuum社は、振動を電気エネルギーに変換するテクノロジーを開発してきました。生成された電気エネルギーは、保守不要の自律型産業用ワイヤレスセンサー装置に永続的に給電するのに使用できます。これらのセンサーノードは、ベアリングの状態を監視するために列車で使用されています。この作業は、以前は人力で行われていました。

 

Perpetuum社の社長であるRoy Freeland氏は「現在では世界各地に、Perpetuum社の振動エネルギー・ハーベスティングで 給電されるセンサーを使用する列車があります」と述べています。彼は、Innovate UKのエネルギー・ハーベスティングに関する運営委員会の委員長を務め、欧州連合(EU)のZEROPOWER Scientific Advisory Committeeのメンバーでもあります。

 

「バッテリーをなくして、代わりにハーベスティングによる エネルギーを使ってデバイスに給電することができれば、IOTデバイスの大規模な採用と展開が実現し、最終的にはIOTの夢がかなうことになります」

VAMSI TALLA氏
ワシントン大学電気工学部博士号取得候補者

 

「私は休暇中にスマートフォンを取り出して、リアルタイムに、10時37分ロンドン発ブライトン行き列車のベアリングの状態を調べることができます。これは、エネルギー・ハーベスティングが多数のデバイスでIoTに応用された、すばらしい例となっています」

 

振動センサーは、製造業のプロセスプラントでも広く使用されるようになってきています。「GE社のBently Nevada、(それに加えてエネルギー機器企業の)Emerson社とHoneywell社を含めて、ガス、化学、発電用のステーションでは、振動エネルギーのハーベスターを使用してプロセスプラント内のワイヤレス・センシング・システムに給電しています。これは、中央の運用部門が、世界のどこに機器があるかを問わず、自社の機器の状態について完全な可視性を持つことを意味します」(Freeland氏)

 

一方、オランダ、ユトレヒトに本拠を置き、ワイヤレス接続の家庭用応用製品にRF通信テクノロジーを提供する企業であるGreenPeak Technologies社は、バッテリーなしで動作可能な照明スイッチを開発してきました。同社創設者でCEOのCees Links氏は、「スイッチを動かすだけで、ランプに信号を送信するのに十分なエネルギーが生成されます」と述べています。

熱と身の回りのエネルギー

熱エネルギーの分野では、EnOcean社が、温度の小さな変動を利用してセンサーノードに給電できるテクノロジーを作り出しました。この原理は既に農家によって、温度、湿度、土壌水分、pHレベル、多量栄養素を含む田畑内のデータを収集するために利用されています。

 

LONDON, ENGLAND - FEBRUARY 04: The Gatwick Express train service travels over snow-covered tracks in Croydon on February 4, 2009 in London, England. Much of the capital's transport network was shut on Monday due to the heaviest snowfall for 18 years and although virtually all services have returned to normal, more snow is predicted for the coming days. (Photo by Oli Scarff/Getty Images)
Kassner氏は次のように述べています。「当社のテクノロジーが、電源内蔵型の暖房用バルブの開発成功につながりました。このバルブは、室温と在室状況に基づいて暖房を自動的に調整できます。暖房費は通常、個人家庭のエネルギーコストの最大部分、およそ20%から30%を占めていますが、これによって、利用者が一切介入することなく暖房費の削減が可能になっています」

 

身の回りのエネルギー・ハーベスティングで進化したものとして、Wi-Fi信号でリモートデバイスに電力を流す機能が挙げられます。この場合、ノイズを流し、一定のエネルギーを維持して電力を供給するように変更が加えられたルーターを使用します。Talla氏は次のように述べています。「最近われわれのグループが、Wi-Fiアクセスポイントから最大で9mの距離までデバイスに給電できることを示しました。たとえば、この方法で発電したエネルギーを使って監視カメラに給電する機能を実地で示しました」

 

太陽エネルギーは別の形の環境エネルギーです。日本の富士通では、たとえば、太陽光発電式の厚さわずか2.5mmのビーコンを開発しました。これは曲面や角に張りつけることができ、衣類にさえ付けられます。一方、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)の電気工学部に所属する2人のエンジニアが、太陽エネルギーを最大80%電気に変換することができる、小型のコンバーターチップを開発しました。博士課程の学生Dina El-Damak氏と彼女の指導教授であるAnantha Chandrakasan博士は、これは、従来の太陽電池に対する相当な改善であると指摘しています。従来の太陽電池では、使用可能なエネルギーに変換できるのは最大で半分なのです。

 

総体的な将来性の検討

エネルギー・ハーベスティングの潜在力は期待できますが、専門家は、これらのソリューションが日常生活に適用できる範囲について現実的であり続けることが重要だと警告しています。
米国インディアナ州にあるパデュー大学の博士課程の学生であるHrishikesh Jayakumar氏は次のように述べています。「エネルギー・ハーベスティングという技術の最大の課題は、提供されるエネルギーがきわめて少量であることです。そのうえ、得られるエネルギーは動的で、短時間に爆発的に生成されたり、連続的に少しずつ生成されたりする可能性があります。これは、バッテリーから得られるエネルギーとはまったく反対の性質です」

 

今のところ、用途は少量のエネルギーしか必要としないデバイスに限られているとKassner氏は指摘しています。「発電面だけでなく、システムがアクティブではないときに消費されるエネルギーの量がごくわずかになるように、非常に効率的なスリープモードを実装する必要があります」

 

Freeland氏は消費者に、読んだことすべてを信じないように忠告しています。「最近全国紙で、携帯電話は将来、エネルギー・ハーベスティングを活用して周囲の無線周波数信号から電力を得ることになるという記事を読みました。これはナンセンスです。記事の研究の一部は基本的な物理学の法則を無視しているように思えます。エネルギー・ハーベスティングの分野で進歩を遂げるつもりなら、現実的である必要があります。これらの方法を使って発電できる電力は非常に少量である、という現実は変わりません」(Freeland氏)

 

GreenPeak社が新しい、より効率的な方式のバッテリー電力を作り出すことに注意を向けたのは、エネルギー・ハーベスティングの電力の限界が理由です。Links氏は次のように述べています。「三年を費やしてエネルギー・ハーベスティング市場に取り組みました。すばらしい潜在力を秘めた領域はいくつかあるのですが、当社にとっては経済的に取り組み不可能でした。そのため代わりに、予想製品寿命が十年を超える、低コストの超低電力バッテリーの作成に取り掛かりました」

 

将来のハーベスティング

制限にもかかわらず、ハーベスティングによるエネルギーを適用する新しい方法によって、IoTには非常に大きな潜在力が備わっており、業界が発展の速度を落とす兆候はありません。米国マサチューセッツ州で分析と予測を行う企業、WinterGreen Research社によれば、世界全体のエネルギー・ハーベスティング市場は、2012年には1億3140万米ドルでしたが、2019年までに42億米ドルに増加すると予想されています。

 

採用の増加が確実と思われる分野の一つはスマートシティです。Kassner氏は次のように述べています。「増加する世界人口の半分以上は都市に住んでいます。住人の日常生活を調整し、同時に環境と資源を守るためには、インテリジェントな制御が必要になります。スマートシティの構想では、交通、街灯、エネルギー供給、必要な品物の輸送、廃棄物処理について、自動化された制御の提供が予定されます。これを実現できるのは、必要とされるデータの収集と配信を行う、無数のワイヤレスセンサー装置を使用する場合のみです。

 

州立ポートランド大学のBlyler博士は、次のように予言しています。「スマートビルディングに採用されるあらゆるものを含めて、多数のIoT用途で進歩が見られるでしょう。こうしたビルでは構内でエネルギーを生み出し、配線を使用せずに伝送して補聴器のバッテリーを充電することができます。ウェアラブルの分野でも進歩が見られるでしょう。これは、消費者は絶えず充電する必要のあるデバイスにはまったく我慢ならないためです」

 

「総体的に、先には非常にわくわくする未来が広がっています」とEnOcean社のKassner氏は述べています。「IoTセンサーの開発の勢いは、コンピューターや携帯電話で経験したように急速なものになると思われます」◆

著者: Lindsay James


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