
小売業やサービス業、旅行業に大きな変革をもたらしたデジタル・マーケットプレイスは今や産業界やサプライチェーンのあり方を変えようとしています。従来型のビジネスモデルが激変を迫られる一方、その変化のうねりはB2Bのサプライチェーンの上流から下流までのあらゆる企業を巻き込み、それぞれが新たなターゲット層を見出し革新的な新しい顧客エクスペリエンスを創り出すような絶好の機会になる、と専門家たちは見ています。
2017年10月24日、フォーチュン500のサプライヤー企業の株価が5%下落しました。NYSEおよびNASDAQ指数は基本的に大きく変化していないにもかかわらず、です。
何が起きたというのでしょう?投資アナリストによると、この下落の原因はAmazonビジネスの立ち上げにあります。これはAmazonの法人顧客に迅速なビジネスプライム配送を無制限で提供するもので、企業間で商品の売買を行うオンライン・マーケットプレイスとして、売り手と買い手の間での商取引を可能とするソフトウェア・プラットフォームを提供します。プラットフォームは仲介業者の役割を果たし、取引は基本的にプラットフォームに参加する企業と企業の間で直接行われます。
Amazonビジネスでは参加企業が在庫、物流の義務を担うことでコストを抑えられ、アジリティが向上します。世界最大の企業間マーケットプレイスプラットフォームであるアリババでは、Amazonが世に先駆けて書籍の販売で実践してみせたこのモデルを創業時から採用し、バランスシートの在庫をゼロとしています。
マーケットプレイス・モデルでは、大量の在庫や大型の設備と物流機能を抱える企業では考えられないスピードとスケールで成長できます。キャパシティの拡張性の高さ、比類ないユーザーエクスペリエンスにより、こうしたマーケットプレイスは様々な業界に次々と革新をもたらしています。
変化した顧客の期待
消費者向けビジネス(B2C)、個人間取引向け(C2C)のマーケットプレイスは、サービス(Airbnb, Wimdu)、観光(Booking.com, Ctrip)、金融サービス(M-Pesa, PayPal)、輸送(Uber, Lyft)、小売り(eBay, Tmall)で大きな成功を収めています。
消費者からみて、豊富な選択肢や簡単な比較、低価格でどこからでもどんなデバイスからでもアクセスが可能、素早い成約と履行、コミュニティでのやりとり、といったデジタル・マーケットプレイスの魅力は明らかです。端的に言えば、顧客エクスペリエンスの勝利です。
エクスペリエンスは顧客の選択肢や価格、利便性に対する期待に決定的な変化をもたらしました。企業間のモノやサービスの取引でも、同じタイプのエクスペリエンスが求められるようになるのはもはや時間の問題でした。
「企業間取引における買い手は消費者でもあり、彼らのデジタル・エクスペリエンスに対する期待値は高いです」と、カリフォルニア州、マリナ・デル・レイにある企業間、消費者向けe-コマースサービス企業のGuidance SolutionsでE-コマース、オムニチャネル戦略担当シニアバイスプレジデントを務めるBrian Beck氏は言います。
「場所はもはや問題ではなく、必要とされる場所で販売することです。求められてもいない場所にいる必要はありません」
ANDY HOAR氏
PARADIGM B2B CEO
企業間マーケットプレイスは決して新しくはありません。Amazonビジネスがアメリカから、ドイツ、イギリス、フランス、日本、インドに拡大したのは最近ですが、世界の多くの地域では企業間マーケットプレイスは20年前から存在しています。アジアにおいては特に、アリババ、Global Sources、TradeIndia、IndiaMART、DHgate、HAIZOL、その他の著名な企業間マーケットプレイスが何百万という産業界の買い手と売り手をつなげています。
では、インダストリアル・マーケットプレイスは何が新しいのでしょう?1つは今日、法人顧客が必要とする、クラウド、モバイル、ソーシャル技術をビックデータと組み合わせた高度な戦略により、心をつかむ、Uberタイプのエクスペリエンスを創り出すことにあります。また、低価格の3Dモデリングと3Dプリンティングを提供する技術は小規模な企業にもグローバルなマーケットプレイスへの参画の機会を提供します。最後に、企業間e-コマース市場の可能性がグローバルに注目される中、マーケットプレイスのオペレーター各社は積極的に新しい地域に拡張し、提供する商品の幅を広げていることが挙げられます。
グローバル規模での成長と破壊
調査会社であるStatistaによると、企業間e-コマースの2017年の売上は7.7兆米ドル(6.5兆ユーロ)で、消費者向けe-コマースの3倍です。
CloudCraze(Salesforce子会社)が欧米のB2B 400社の意思決定層に対して行った調査によると、調査対象の89%がe-コマースをB2Bにおける主要成長要因ととらえています。今回の調査では、初めてほぼ半数(48%)のB2B企業が全製品ラインをオンラインで販売していました。
アリババグループの創業者兼会長のJack Ma氏は中国・杭州で開催された2017 Investor Dayにおいて、2020年までに同社の収入が単体で1兆米ドルとなり、2036年には、世界人口の3分の1(約20億人)に同社がサービスを提供し、1,000万社の企業をサポートし、1億人の雇用を生み出し、世界で5番目の企業となる、と予測しています。
コンパス誌に対し、アリババのスポークスパーソンは以下のように述べています。「当社は単なるe-コマースウェブサイトをはるかに凌駕した存在になりつつあります。というのも、消費者、企業、その他の参加者が当社のエコシステムでビジネスを展開し成功できるよう、当社ではパートナー各社に対し、統合された技術インフラと、支払い、物流、クラウドコンピューティング等といった付随する一連のサービスを提供しているからです」
この進化するエコシステムモデルと驚異的な企業間マーケットプレイスの成長は、単に代理店や卸売りといった中間層のあり方を一変させているだけでなく、設計から販売にいたるまでのサプライチェーン全体を再定義している、と専門家は口を揃えます。結果として、これまでのサプライチェーン・モデルでは自明だった事柄は、再考を余儀なくされています。誰に販売すればいいのか?顧客データを管理するのは誰か?物流や注文の履行、在庫、アフターセールスサービスを担うのは誰か?
Robert Bosch Tool(米国に拠点を置くボッシュ・グループの子会社)でブランド、デジタル担当バイスプレジデントを務めるSonesh Shah氏は、同社のチャネル・パートナーと同様、この大きな変化を感じています。同社は企業向けおよび個人向けの電動工具を製造しており、これまで販売代理店や小売り店を通じて製品を販売してきました。
Sonesh Shah氏は以下のように述べています。「企業間マーケットプレイスの代理店への影響については大きく騒がれていますが、メーカー側にも大きな変化が起きています。ブランドメーカーとして、これまで当社は卸売り業者や代理店、小売り店との関係に細心の注意を払ってきました。現在、巨大なe-コマースが突然現れ、従来のサプライチェーンで成功できるように構築してきた公式・非公式な構造をひっくり返しています」
メーカーは今、既存のパートナーを介してマーケットプレイスに参画するか、または自社で直接マーケットプレイスに参画するかの決定を迫られています。Shah氏は、メーカーにとってこれは戦略面、運用面での課題ではあるが、顧客第一で考えることで道を誤ることはないと言います。
「お客様を第一に考えることです。メーカーとして、製造する製品の最終使用者を第一に考え、彼らの目を通じて価格や、利益率、ブランド、物流といった問題を検証することで正しい方策が見つかります」
そのため、Robert Bosch Tool では、インダストリー・マーケットプレイスや企業間e-コマースへの転換を、おおむね脅威ではなく機会ととらえています。実際、Shah氏のチャネル・パートナーも同意見で、マーケットプレイスを自社の競合というよりも新たなチャネルとみなしています。同社のパートナーはマーケットプレイスで大きな成功を収めており、それはパートナー企業とRobert Bosch Tool双方にとっていいことであると同氏は言います。
業界に新しい機会を提供
インダストリー・マーケットプレイスの擁護者たちは、インダストリー・マーケットプレイスはサプライチェーンと顧客エクスペリエンス・イノベーションの両方を向上するものだと言います。かつてForresterのバイスプレジデント兼企業間商取引のリードアナリストを務め、現在はシカゴの企業間e-コマースの戦略会社、Paradigm B2BのCEOであるAndy Hoar氏は、この到来を楽観的にとらえることが重要であると強調します。
「線形で、階層的な過去のサプライチェーン・モデルを打ち破る、協調的なマーケットプレイスは、原材料サプライヤーからアフターセールスサービス業者に至るまで、あらゆる関係者間のつながり、やり取り、イノベーション、共同での価値の創造を可能とし、ビジネスを成功に導いてくれます」
Guidance SolutionsのBeck氏は、あらゆる規模のメーカーやブランド、代理店にとってマーケットプレイスは不可欠なe-コマースチャネルであると言います。「マーケットプレイスでなければアクセスできない地域やお客様に、これからはアクセスできるようになります。肝心なことは、顧客が望むものを、彼らの望む場で販売することです。自分が売りたいと思う場所やモノではありません。顧客が今買おうとしている場所だけで戦うと機を逸する可能性がありますが、マーケットプレイスではどこでも戦えます」
「顧客が今買おうとしている場所だけで戦うと機を逸する可能性がありますが、マーケットプレイスではどこでも戦えます」
BRIAN BECK氏
GUIDANCE SOLUTIONS E-コマース、オムニチャネル戦略担当シニアバイスプレジデント
同様の動きが買い手側でも起きているというのは、Xometryでセールス・マーケティング担当シニアバイスプレジデントを務めるBill Cronin氏です。カスタム部品を製造する同社のマーケットプレイスでは、試作品と部品の買い手が全米の製造サプライヤーとつながることができます。同氏は以下のように述べています。「マーケットプレイスに参画することで、設計者とエンジニアは膨大な数の認定サプライヤーとつながることができます。ほとんどが自力で見つけるのは不可能なサプライヤーばかりです」
Cronin氏はまた、マーケットプレイスが全員の獲得プロセスをシンプルにすると考えています。特にXometryプラットフォームではマシンラーニングを使用することで、複雑なプロセスを自動化し、顧客にとってベストな価格とサプライヤーを特定します。
適切なマーケットプレイスを見つける
実際、自社向けに適切なインダストリー・マーケットプレイスを見つけるのは容易ではありません。原材料、標準部品、カスタム製造、プロセス製造、機械、ツール、重機、工場・拠点向け補給品、労務、運輸、パッケージングなど、ほぼあらゆるタイプのB2B製品やサービスに向けたマーケットプレイスが存在します。
ChannelAdvisor(企業のマルチチャネルでの販売管理を支援するe-コマースプラットフォーム)の創業者であり、会長でもあるScot Wingo氏はこうしたオプションを通じてビジネスを始めるにあたり、まずは自社の能力(製造、コールセンター、物流等)を評価することを勧めます。会社の能力と事業計画に照らし合わせて、適合するマーケットプレイスのタイプを絞り込むのです。
マーケットプレイスの選定をさらに進める上で、Guidance SolutionsのBeck氏が勧めるのは顧客第一主義です。「製品の最終使用者を重視してください。彼らはどこで購入し、どこで商品をリサーチし、プラットフォームがどんな価値を彼らに提供できるのか?また、企業間商取引での購買は消費者向けビジネスにおける購入よりずっと複雑であることも忘れてはいけません。しかも買い手は、業務で購入しているのです。つまり、買い手がしなければいけないことをより迅速かつ容易に行えるようなソリューションが必要です」
企業間マーケットプレイスの未来
企業間e-コマースにむけた大きなうねりの先に、どんな未来がインダストリー・マーケットプレイスを待ち構えているのでしょう?サプライチェーン関係者がこの先予測しなければならない展開とは?
「アリババやAmazonも認識しているように、カギを握るのはデータだ」とChannelAdvisorのWingo氏は言います。ビッグデータの収集やアナリティクスは顧客に成功をもたらすと同時に、それを提供する企業側にも成功をもたらします。
データに関連する興味深いトレンドとして、起業家たちが、マーケットプレイスから学んだことをベースに新しいビジネスを立ち上げているということが挙げられる、アンカーのような企業が今後ますます台頭するだろうとWingo氏は言います。アンカーの創業者は製造経験のないソフトウェアエンジニアで、Amazonマーケットプレイスで携帯電話の充電器の市場を調査し、需要が追い付いていない状況を理解し、ビジネスに乗り出しました。
Wingo氏は以下のように述べています。「アンカーは今やAmazonの該当カテゴリーで最も人気の高いブランドで、スマートホーム市場にも進出しています。Alexaに対応するスマートなスピーカーを導入し、Amazonで最も安価なAlexa機器であるAmazonエコーよりも低価格を実現しています。
AmazonにとってはAlexaの浸透の手助けになる技術革新は何であれ歓迎でしょうが、この例では今や企業はマーケットプレイスから台頭してくる革新的なライバル企業も念頭に入れて準備を進める必要があることを示唆しています」
by Laura Wilber
投稿 産業市場にアジリティと革新をもたらすB2Bデジタル・マーケットプレイス は ダッソー・システムズ株式会社 公式ブログ に最初に表示されました。